月下星群 〜孤高の昴

    其の十八“豊穣祭にて”D
 

 
 
          




 林の中、小径から外れた奥まったところにひっそりと。それがそこにあると知る者以外には、意味もないまま気づかれぬように佇む、小さな小さな掘っ建て小屋。ぎりぎりまで近寄ってから、窓からひょいと覗いた小屋の中の空気は、まださほど殺気立ったものになってはいない模様であり、外部への警戒もないままにそれなりの賑わいに沸いていた。明かりは梁から吊るされた大きめのランプが1個と、それだけではしょぼくれて見えるからか、大きめのロウソクを灯した燭台を何本か立て回しての結構な目映さで。見張りを立ててあることと、年に一度の収穫祭りの最中にこんな人気のないところへわざわざ運ぶ者もおるまいと、見越した上での余裕からくる大胆さ…というところか。まま確かに、祭りは明日が本宮で、リサちゃんが言うには 出し物の演目も多いそれへと向けての準備や何やに、島の人々は皆して忙しいのだという話だったし、島外からのお客たちの来訪も明日いっぱい、本宮の宵祭りが幕を降ろすまでは途切れることもないだろう。そんなこんなで最も人出も多くなるのが、最終日の明日。訪れた客たちが一斉に帰途に着くのはその直後からで、そんなどさくさに紛れてならば…あっと言う間にこさえられた大枚の借金をかざされて、意に染まぬまま引っ立てられる輩たちを連れての脱出も、さして怪しまれもせぬままにさぞかし楽に運べるだろうから。
“結構 気の長い段取りらしいってことか。”
 そんな物騒なことを目論んでいる手前、今はまだカモたちを怯えさせるには早すぎるということか。小さな負けにしょぼくれたり悔しがったりしている顔もあるにはあるが、もしかして場を盛り上げるための負け役、所謂“サクラ”の演技なのかも知れないしで、
“成程な。これじゃあ、どいつがカモでどいつがサクラかってところまでの見分けは難しいな。”
 自分の身体の部位を幾つでも何処にでも“咲かせる”コトが出来るロビンが、その“ハナハナ”の力を使っての“一瞬にしての捕縛”をやらかすには、せめてそういう見分けが必要。よって、救出対象と敵とが混在しているこんなケースの場合、下調べのないままには無理な相談というもので。相手方にしたって、こんな狭い小屋で物陰での打ち合わせなんてものをやらかせばカモである客にたちまち怪しまれもしようから。そんな迂闊は絶対にすまいと来て、尚のこと“見分ける”なんてのは難しい相談でしかなくて。その点、一気呵成という勢いのある攻撃の最中にあっても、一瞬の相手の反応を見極めては、力加減や切っ先の角度をいかようにでも制御出来るゾロならば。ぎゅうぎゅうに並んでる中からでも、斬って良いもの・守るべきものの判別と対処の切り替えが紙一重の単位で可能だから…と見込まれたらしく、
“出来ることへの信頼というよか、出来なくてどうすんだってカッコでの挑発みてぇだったがな。”
 可愛らしくも頼られたって代物じゃあないよと。ヘッと鼻先で笑い、自慢の刀を腰から二本だけ、音もないまま抜き放つ。最もレベルの高い戦闘態勢に入った証しのように、頭に巻きつけるバンダナも、今は二の腕に巻いたままになっていて。集中は必要だが、殺し殺されに来た訳じゃあない。研ぎ澄ませた殺気ではなく、柔軟な余裕でもってかからねばならないからということか。そのまま軽く深呼吸をし、
「行くぞ。」
 傍らのウソップへと声を掛ける。いや、行くぞと言われても…となどと、まだ何かごちゃごちゃと言いかけていたものの、ゾロの手元で刀の鍔がジャキリと鳴ったら、もう止まらないことも先刻承知。
“ひぃいぃぃぃ〜〜〜〜っ!”
 心の中にて悲鳴を上げながらも、なるようになれとパチンコを構えつつ、でっかい背中の後を追う覚悟をやっとこ決めて、さてとて、別口の宵祭りがいよいよ幕を開けそうな気配でございます。




 煙草の匂いと安物の酒臭さと。さあ賭けた賭けたという座持ちの賑やかな催促の声が収まって、一瞬シンと静まったところへ。勝った者の歓声と負けた者の舌打ちとが、どやどや・ざわざわ混然と絡まり合って鳴り響く。食べ物や飲み物はご自由にいくらでもどうぞと用意されているので、この小屋から出る必要は一切ないままに。屋台で試したルーレットもどきより、もう少し本格的な盤が据えられたテーブルを囲んで。十人近い青年たちと、もう少し年嵩なおじさんたちが、目を皿のようにしてぐるぐると回される針の先を、じっと凝視してばかりいて。そんな様子を少し離れた壁際から、眺めやってた世話役の男が数人ほど。時折 口の傍へと浮かぶ含み笑いをこらえては、そんなお互いに気づき、視線を投げ合ってほくそ笑む。お膳立てから“からくり”に至るまで、全てを知っているからこそ、罠のかかり具合の方へと快感を覚えながらも素知らぬ顔での監視を続けていた彼らだが、

  「…ん?」
  「? どした?」

 小屋の外に、何かの気配が立ったような気がしたらしき者がいて。背後になってた窓の向こうへと目をやると、
「ボスが戻って来たんかな。」
 そんな“思い当たり”を口にする。
「そうだな。さっき屋台の方への交替にってヤスが出てってから、そんくらいにもなっからな。」
 さっきの見張りも話してたが、もう誘い込みの必要もなかろうだけの職人たちは集まったから。祭りの方にいる必要もなくなったしとそういう意味のやり取りをしつつ、でもそれじゃあドアから来ねぇか? 何だよ、こっちに誰かいんのか? 最初に妙な声を上げた男が、
「何だろうか、むずむずすんだ。」
と意を向けた板壁が、

  ――― ぴし…っと。

 ポルターガイストのラップ音にもさも似たり…な、家鳴りのような乾いた音を立ててから。

  ――― どん…っっと。

 何か、大きなものがぶつかったような鈍い音。板壁がたわんだように見えたのは目の錯覚か。そうと思ったほどに、ド派手な炸裂音は一切しなくって。ただ、

  「な…。」

 何かしらの気配がしたからと、その壁を見やっていた二人ほどは。息を飲んでそのまま言葉を無くしていたりする。何しろ壁が…そこに嵌まっていた腰高窓ごと一瞬で消えたから。窓があったから何の家具も調度も置いてはなかった一角が、一瞬で壁という仕切りを失い、表へ広々と戸口の開いた“刳り貫き状態”になってしまった。しかも、
「…何だ?」
 昔の単位で“数間
すうけん”分ほど。あった筈の壁から少しばかり離れたところで、鷲だか鷹だか、そりゃあ大きな猛禽の類が翼を広げて舞い降りたばかりな姿を思わせて。左右の腕とその両の手にそれぞれ握った和刀の峰と、月を背にして左右に長々と延べていた人影があったりし。恐らくは、この手品のような“何か”を仕掛けた張本人らしきその人影が、落としていた腰をすくっと起こして立ち上がったのとほぼ同時、
「わっ!」
「な、何だなんだっ?!」
 今度は一転、雨のようになって中空から降ってくる何かの音が、ばらばらばたばたと板張りの屋根に当たってやたらと鳴り響き、中にいた全員を浮足立たせた。剣豪による鋭い一閃にて、さっき音もなく粉砕された壁や窓の破片だとすれば…結構物騒かも知れない落下物は、だがまあ さしたる量はなかったか、数秒ほどにて収まったものの。突然の奇妙な驟雨にやっとのこと異変発生と気がついた面々が、次にはいきなり開けている“元・壁際”に気づき、そのすぐ傍らに立って呆然としていた見張り仲間へと声をかける。
「何だなんだ?」
「何してんだ、お前ら…って、壁がねぇよ、壁っ。」
 見ていたからこそ惚けているらしき仲間の肩を揺すり、何があったよと問いただそうとした輩より後方。盆茣蓙の周囲に配置されていた、少しは格が上の連中が、このただならぬ気配へもっと最善の対処を取る。
「手入れかっ?」
「うかっとしてんなっ!」
「こっちのドアだっ、客を逃がせっ!」
「早くっ、明かり消せっ!」
 大した規模の“賭場”ではなかったものの、いきなり空気の冷めた周囲から、不意に明かりが奪われて。あまりに場慣れしていない純朴な“客人”たちは、何だなんだとそりゃあ慌てた様子だったが、
「でーじょうぶだ、お客さん。」
「そこの鉢巻した男についてって外ん出な。」
「トヨジ、ご案内しろ。何、こっちはすぐに静めっから。」
 カモでもある“客たち”を勝手には逃がさぬようにと、下っ端たちに誘導させる采配も鮮やかなもの。田舎で呑気な土地だけに“これまで無事だったんだから”という根拠のない自信から、さほど警戒しちゃあいなかろうと構えてはいたものの、海域守備を担う海軍が相手なら話が別。警備を依頼されて派遣されて来たクチが、街の雑踏のみならず、一応は全島警邏にも手をつけているやも知れず。そういう手合いが気を回してやって来たのかもと素早く察し、そのまま機敏に腰を上げるところは、

  「さすが、わざわざ他所から来てる悪党たちだ。」

 土地のごろつき程度では出来ない反射だ、よく心得てやがるよなという、関心しているにしては鼻で笑っている気配の方が濃厚な、誰ぞの余裕たっぷりの呟きが…慌てて吹き消された燭台たちの、槍のような陰が立つ向こうから低く響いて、その向こう。
「こっちからだけ月光でよく見えるってのは不公平かも知れねぇからな。」
 今宵の月は、乱入者がぶち抜いた壁の側へと昇っており。明かりを消しても相当に明るいものの、言われたその通り、相手の姿の詳細までは逆シルエットになっていてよく見えない。…と、そんな彼の精悍な顔立ちが、不意に灯った黄昏色の明かりを受けて、夜陰の中に“ぽうっ”と浮かび上がったではないか。一体何がそんな明かりとなったのか。両手に和刀を握ったままなその男が、新たに手燭を灯すには手が足りないし…と思いきや。
「う…。」
 いつの間に薙いだものなのか。慌てた賭博師たちが吹き消した筈の、燭台にあったロウソクのうちの1本が、数センチほど先を切られて平らになっており、その切られた先の部分が…赤みを帯びた炎を点けたまま、男が水平に保ったままな和刀の切っ先の上へ、危なげなく載っているではないか。自分の顔を照らして見せたその切っ先、水平に保ったままにて、相対する賊共の方へと差し向けて、
「ま、乱闘騒ぎんなるからって、火を消したのは正解だったがよ。」
 この空気の乾いてる時期に火事んなったら怖いからなと、口元を真横に引いて“にぃ”と笑った余裕の若造。炎から垂れ落ちるロウで刃に張り付いた炎が、だが、どんどん小さくなってゆくのをにんまりと眺めやり、夜風のせいでか震えて消えたのを皮切りに、外より暗い、穴蔵のような小屋へと踏み込むと、

  ――― じゃく・じゃきっ、しゃりん、ちゃり・ざんっっ!

 荒々しくも涼しく、そして軽快に。風を切り、宙を走り、夜陰を疾けた、和刀の切っ先の音。思う存分に奏でられたる斬撃の響きが止まって、さて。入った刳り貫きから出て来たゾロが、顎をしゃくって合図を送れば、茂みの陰へと隠れていたウソップが姿を現し、ぐい〜んと引いたは、自慢のスリングショット。少し大きめの飛礫をお見舞いすると、屋根の近く、梁の端っこへ当たったそれが弾みになって、

  「わ〜〜〜っ!」
  「何しやがんだっ!」
  「他人の小屋だぞ、信じらんねぇっ!」

 その“他人様の小屋”で何をやってた連中なのやら。一気に屋根が落ちて来た惨状の中、身動きが取れねぇとじたばたしている面々を、
「ウソーップッ、ハンマーッ!!」
 素早く眠らせる“物理麻酔”を発動させている狙撃手さんへと後は任せて。
「こいつら、一応は縛っとけ。」
 瓦礫を踏み越え、後衛班への助っ人にと向かった剣豪さんだったりし、
「ある意味、楽勝だったみたいねぇ。」
「そうね。」
 ほんの数分で方がついたその上、子供にはお見せ出来ませんという種の、残虐な“切った叩(は)った”にはならなかったところが、彼らの腕っ節の次元の高さ。あっと言う間に切り崩された小屋の残骸を背景に、さあさ、意識がないうちに簀巻きにしちゃいましょう、何ならそこらの木に吊るしたって良いわよねぇと。女性陣営から弄ばれてる相手へと、気の毒かもしれないと感じてしまうほど。とんでもない助っ人さんたちだったことへ、

  “あははぁ…。凄っごい人たちだったんだ。”

 リサちゃん、今頃になって乾いた苦笑を禁じ得なかったらしいです。






            ◇



 ったく、何てのか。攫われてたのが美女の集団だったなら、俺の意欲ももっと沸くってもんだが、選りにもよって武骨でむさ苦しい職人のお兄さん方ばっかだと来ちゃあなぁ。そりゃあさ、可愛いリサちゃんを泣かした輩たちだから、憎っくき賊どもへの闘志はひとしきり熱く燃え立ってもいたけれど。判るだろ? マドモアゼル。どうせだったなら、か弱き美姫を庇いつつ、雄々しくも凛々しい戦いぶりを見てもらう方が、反射やら切れ味やらも倍加すんのにね。ああでも、美しき女性たちをそんな怖い目に遭わせるなんてのもね。最初の前提条件自体が惨い想像かも知れないかな? そうだね、恐ろしい目に遭うなんて修羅場は、神経の太い男どもだけが味わえばいいこと。考え違いは早い目に正すべきです、はい。
「何をごちゃごちゃ言ってんだ? サンジ。」
 ………何でもねぇよ、クソ船長。新しい煙草に火を点けたと同時、どっかんと落ちたは小屋の屋根であり。木立ちが途切れたその先、背の高い草が結構茂ってるあたりに潜んでた俺たちにも、その様子はよく見えて、
「うわ〜〜〜、何か派手にやってねぇか? 向こう。」
 やっぱズリぃよな、こっちは逃げてくる“こぼれ”を拾う係だもんな、詰まんねと、そりゃあ楽しげに笑いつつ、胸の前で拳を打ちつけてんじゃねぇよ、こんの喧嘩好きが。(苦笑)ああ"? サンジだってブツブツ言いながらも妙に嬉しそうだって? そりゃあまあな。ここんとこ思う存分体を動かしてなかったから、さっきのちょっとした運動程度じゃあ却って燃え残しが燻(くすぶ)っちまってていけねぇや。せめて小汗をかく程度、どんっと発散させてもらわねぇとな。そんな会話を交わしていたらば、小屋があった方からこっちへとやってくる気配が届いた。そんなに人数はいねぇかもと踏んでたが、賭場に詰めてただけじゃあなく、カモを運ぶための船が係留されてでもいるのか、横手の海側の方からの人の気配もあるみたいで、
「…なあ、サンジ。これってもしかして。」
「ああ。連中め、方針を変えるつもりでいんのかもな。」
 明日の宵祭りを観終えてから引き上げる、多くの人々や客船の群れに紛れての出港…というプランは変わりないながら、連れ去る予定の職人たちを“積み込む”のを早めるつもりかも。それでの“お出迎え”の気配なら、見越したよりも相手の頭数は増えて当然だったが…。だが しかし。
「巧妙で周到な機転の利かせようではあるが、腕っ節までレベルが高いとは限んねぇ。」
 連中がやろうとしていることは悪どい企みには違いないが、執行に際しては特に際立った暴力武力までは必要がない。片田舎の純朴な職人たちが相手なんだから、法外な借金という“枷”を使った搦め手だけで十分だ。逆に言やあ、見せるだけで黙らせることの出来る腕っ節があるんなら、こんなごちゃごちゃした段取りは要らない。家族を悲しませたくはないだろうと、仄めかすような言いよう一つで相手を意のままに出来ようから…と、そんな最低な手管に明るい自分へも反吐が出そうになちったぜ。不快な想いをさせてごめんな? レディたち。
「こっちへ…。」
「トヨジ、こっちだ。」
 仲間同士でのやり取りがかすかに聞こえて、どうやら合流した模様。このまま引き渡されて船へと連れ込まれちゃあ、助け出すお兄さんたちが“人質”っていう楯にだってされかねねぇから、
「行くぜ、ルフィっ。」
「おうっ。」
 頼むから助ける方の兄さんたちを殴んなよと、声を掛けかけたところへ、ざんっと。一陣の風が吹きつけて、

  「…わっ!」
  「何だなんだっ!」

 混乱の声が上がったそんな中。月光に照らされ、別世界の海にも似たうねりで周辺を覆ってたススキだろうか草むらの束また束が、いきなりごそりと薙ぎ倒されてる。わ〜〜〜、急に見通しがよくなったは良かったが。それは向こうにも言えることであり、
「なんだ、てめぇらっ!」
「追いはぎか?」
 言うに事欠いて何が“追いはぎ”だっ。追いはぎって何だ?なんて間近から訊く奴まで出た日にゃあ、もうもう息を忍ばせてる意味もねぇから、
「追いはぎより恐ろしい海賊だよっっ。」
 こんの下衆野郎どもがよっと、向かって来た手合いを自慢の蹴撃で迎え撃つ。手前の野郎に蹴るというより踏みつけの一撃を食らわし、それを踏み越しつつ次の獲物への胸倉を突き飛ばして地に沈め、安物でもシャツの上なら手も傷まねぇ。そこに軸になる手を突いたまま、逆立ちになりつつ両脚をぶん回しての目にも止まらぬ旋回連続蹴りを一気に決める。そうしてる脇では、
「何だ、ゾロか。」
 草むらの大掃除を一瞬でやってのけた剣士へと、麦ワラ帽子の船長が何ともお暢気な声を掛けており、
「よく迷子にならんかったな。」
「こんな至近でなるかっ!」
 しかもお前に言われたくはないと、怒鳴り返している雄々しき勇者だったけれど。………ほんの数歩分しか距離は空いてなかった仲間たちとの同行で、いきなり迷子になりかかっとったのは何処のどどいつであったやら。(忘れたとは言わせんぞ。何しろ“CP9のガレーラ・カンパニー襲撃”がまだ記憶に新しい、筆者はアニメ派でございますから。)
「何だ? 頭数が増えてるような気がするが。」
 これでも小屋にいた顔触れは覚えており、屋根の下敷きにした連中の数だけは削ったはずなのにと、なかなか物騒なお言いよう。そこへと、

  「てぇ〜いっ、暢気な立ち話なんぞしとる場合かっ!」

 最初の一舞いを見事に決めた俺様が、しょうがねぇ奴らの尻を叩いてやる。
「島の職人さんたちを早い事引き離さにゃならんだろうが。」
「あ、そうだった。」
 こいつらはまったく、す〜ぐに本旨を忘れる“鳥頭”だから世話が焼けるってもんで。でもどうやって見分けんだ?と。実に素朴なことを聞いてくるルフィだったもんだから、
「そんなもんは簡単だ。」
 ああそうさ、簡単なもんだ。こんな素朴な港町なら尚更に、一言、言い放てば良いだけのこと。

  「カキが世界一旨いのは、何たってイーストブルーのオイスター島だろうがよ。」

 胸を張っての大威張りで言い放てば、
「…お〜い。」
「なんだ? そりゃ。」
 ルフィやクソ剣士のみならず、
「もしもし?」
「それって、だからどうしたよ?」
 職人さんたちを攫ってこうとしていた連中たちまでもが呆気に取られていたけれど。

  「ちょっと待った。」
  「それは聞き捨てなんねぇな。」

 何だか収まりがつかない言いようだぞ、それと。少々表情を硬くして、待ったをかけた陣営があって。ほ〜ら見ろと、俺様得意満面の図。つか、こんなもんは常識の範囲だっての。
「…な? こっちのお兄さんたちが島の職人さんたちだ。」
「え? え?」
 何で?と小首を傾げる船長へ、ちちち…と指を立てて宙で降る。
「だから。この島は観光は二の次で、農畜産業や漁業が盛んな土地だってナミさんも言ってたろうがよ。」
 だからこその大掛かりな“収穫祭”でもあるのだし。ということは、
「採ったり作ったりには門外漢の職人さんでも、美味しいもんはよくよく知ってる。地元の新鮮なもので十二分に舌が肥えてんだ。誇りでもある旨いもんへ、それより上があるなんて言われちゃあ、黙ってはいられないもんなんだよ。」
 大威張りで言い切った俺様へ、

  「サンジ、凄げぇっ!」

 ルフィは素直に納得したようだったが、クソ剣士はまだどこか胡散臭いってな顔してやがった。だ〜〜〜、細かいことは良いからさ。この職人さんたちは、俺が向こうまでエスコートしてくから。お前らで後始末の方、よろしくな?







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  *何が凄いって、まだお題に辿り着いてないってことが凄いです。
   いちもんじ様、もちっとお待ちを〜〜〜。